黄泉国と三貴子誕生

イザナミの死と黄泉国下り

愛しい妻を亡くしたイザナキは嘆き悲しみ、「愛しい私の妻よ。 おまえは、子どもの一人に代わろうというのか。」といって、イザナミ神の枕もとで、腹ばいになって泣きに泣きました。その涙から女神が生まれました。 

そして、イザナキはイザナミの亡骸を、出雲国(いずものくに)と伯伎国(ははきのくに) の堺にある比婆(ひば)の山に葬りました。 

葬った後、イザナキは、腰につけた十拳剣(とつかのつるぎ)を抜いて、火の神であるカグツチを切ると、そこに、タケミカヅチなどの神々が生まれました。 

イザナキは、亡き妻に会いたい気持ちが募り、とうとう死者の国である黄泉国までイザナミを追って行きました。 

そして、黄泉の国の御殿の内側にいる妻のイザナミに向かって、言いました。 

「いとしい私の妻よ。私とあなたで作っている国は、まだできあがっていない。どうか、帰ってきておくれ。」 

しかし、イザナミは、「残念です。あなたが早くいらっしゃらないので、

 私は、黄泉の国で作った食べ物を 食べてしまいましたので、もう帰れません。 でも、いとしい夫のあなたが来てくださったので帰ろうと思います。黄泉の国の神と相談しましょう。その間、けっして私を見ないでください。」と言って、御殿の奥に入っていってしまいました。 

どのくらい時間が過ぎでしょうか。たいへん長く待ちましたが、イザナミは現れません。 

待っていられなくなったイザナキは、ついに髪の左のみづらにさしていた、くしの歯を一本折って火をともし、御殿の中に入りました。

 

そこで見たイザナミの姿には、なんと、イザナミの体にはうじ虫がたかり、

頭、胸、腹などには雷神がいました。 

それを見たイザナキは恐れおののき、黄泉の国から逃げ帰ろうとしました。 

すると、イザナミは、「よくも私に恥をかかせましたね。」と言ってヨモツシコメに、イザナキの後を追わせました。 

イザナキが逃げながら黒つる草でできた髪かざりを投げると、地面に落ちて山ぶどうの木が生えました。 

シコメたちが山ぶどうの実をむさぼり食べている間に、イザナキは逃げました。 

しかし、まだ追いかけてくるので、イザナキは、今度は右のみづらにさしていた

竹のくしの歯を折って投げると、今度はたけのこが生え、シコメがそれを抜いて食べている間にイザナキはまた逃げました。 

そこで、イザナミは、自分の体にいた八種類の雷神達に千五百の軍勢をつけて追いかけさせました。そこでイザナキは、剣を抜いて体の後で振りながら逃げました。 

しかし、まだ追いかけてきます。 

ようやくイザナキが黄泉比良坂のふもとに来た時に、そこに生えていた桃の木から実を三つ取り、待ちかまえて投げつけたところ、雷神達は黄泉の国に帰ってゆきました。 

とうとう、イザナミ自身が追いかけてきました。イザナキは、千人で引くほどの重い大きな岩で、黄泉比良坂を塞ぎ、イザナミと、その岩を間に置いて向かい合って立ちました。 

イザナミは、言いました。「いとしい私の夫よ。あなたがこんなことをするのなら、

あなたの国の人を一日千人、殺しましょう。」 

イザナキが応えました。「いとしい妻よ。あなたが千人殺すなら、私は、一日に千五百の産屋を建てよう。」こういうわけで、一日に必ず千人死に、千五百人が生まれるのです。 

こうしてイザナミは、黄泉津大神という名になりました。 

この話に出てくる黄泉比良坂は、出雲国の「伊賦夜坂」 のことであると言われています。

 

三貴子誕生

黄泉国から帰ったイザナキは「なんときたない国へ行ったのだろう。」と言って、竺紫の橘の小門の阿波伎原に行って、体を清めることにしました。 

 

この時にイザナキが脱いだ衣服などから神々が生まれました。イザナキが体を洗い清め時に禍の神々が生まれ、また禍を直そうとして神々が生まれました。水に潜ると、また港の神々が生まれ、航海を司る海の神々が生まれました。 

 

そして最後に顔を洗うと、左目からアマテラスが、右目からツクヨミが、鼻からはスサノオが生まれました。 

 

イザナギは三貴子の誕生を大変喜んで、「わたしは、子を生み続けたけれど、ついに三柱の貴き子を得た。」と言い、アマテラスに高天原の統治を、ツクヨミに夜の統治を、スサノヲ神海原の統治を任せました。 

 

ところがスサノオは委任された国を治めることなく、ヒゲが長く生えるほどの大人になっても泣きわめきました。 

 

青々とした山を枯れ山にするかのように川や海はすっかり泣き乾すように泣くため、悪い神々の声が騒がしく世の中に満ち、いろいろな物事にあらゆる禍が起こりました。 

 

イザナギはスサノヲに問いただした。「どんな理由があって、おまえは任された国を治めないで、泣きわめいているのだ。」スサノヲが答えて言うには「私は、母の国である根の堅州国に参りたいと思って泣いているのです。」と。

 

それを聞いたイザナキは大変怒って「それならば、おまえはこの国に住むべきではない」と、スサノヲを神やらいに追い払ってしまいました。